最高かもしれないプレゼント

 その夜のSでのこと。その日は愛抱夢の誕生日だと少し話題になった。同学年であるチェリー、ジョーのうち一番最初に誕生日を迎えるのが愛抱夢らしい。

 チェリーとジョーは〝Sia la luce〟で愛抱夢の誕生祝いを先に済ませていると言っていた。三人で飲んだときに愛抱夢の誕生日が近いことに気づき高級ワインを一本開けたということだった。

「まあ僕たち子供がプレゼントあげるのも変だしね。だいたい愛抱夢の誕生日なんて今知ったし、こっちだって貰っていないしさ」と実也はスポーツゼリー飲料をずずっと吸って涼しい顔だ。

「だな!」と暦が反応した。

 確かにそうだとは思うのだが——

 ランガは暦にそっと耳打ちをする。

「暦は愛抱夢からバースデイプレゼントに花もらっていたよね……」

 ペットボトルを握る暦の手が止まり表情が固まった。

「……」

「忘れていた?」

「ああ。綺麗さっぱりな。イヤな記憶はさっさと消去したかったんだろう——どうすっかな」

 そんなイヤなことだったのか。どうでもいいけど、もう少し仲良くして欲しい。

「暦は愛抱夢の誕生日知らなかったんだし、気にしなくていいと思うよ」

「なんか借りをつくているみたいで、俺がイヤなんだよ。おまえはなんか用意したのか?」

「愛抱夢は、理由をつけては俺に花や美味しいものくれるから、母さんに言われてプレゼント用意したんだ。高くないもの。愛抱夢は気持ちを喜ぶ人だよ」

「そっか。にしてもランガ……おまえ、餌付けされてんな。懐きすぎなんだよ」

「そうかな……」

「まったく……」

 そんなやりとりをするランガと暦の背後から——

「やあ、ランガくん。さっきの滑り見ていたよ。いつもながら攻撃的でラブリーな滑りで素晴らしかったよ」

 まさに噂をすれば影だ。

「愛抱夢……ありがとう。それと……誕生日おめでとう。プレゼント用意してあるんだ。あとでね」

「気にしなくていいんだよ。でもランガくんの気持ちは嬉しいなぁ」

 ランガの後ろで気まずそうにしている暦にチラリと愛抱夢は視線を送った。

「おや? そこにいるのはもしかして赤毛くんかな? 何か言いたそうにこちらを見ているようだが。また僕たちの邪魔をしようと考えているのかい?」

「ち、ちげーよ。おまえ、誕生日なんだってな」

「それがどうかしたのかな」

 暦がふいっと目を逸らした。

「俺の誕生日のとき花もらっちゃっているからさ、何か返さなくちゃとは思っていたけど、今日、誕生日なんてさっき初めて聞いたし……」

「ああ、あの花はね。ちょっとした気まぐれだから気遣いはいらないよ。どうせ大した意味はない。僕も今の今まで〝綺麗さっぱり〟忘れていたからね」

 〝綺麗さっぱり〟のところを大声で強調していた。もしかして……愛抱夢も暦と同じようにイヤな記憶だったのだろうか。

「それだとどうもスッキリしない。借りはさっさと返したい……そうだ……」

 暦はいきなりランガの肩をつかみ、ドンっと愛抱夢の方へと突き飛ばした。

「うわっ!」

 ランガは一瞬バランスを崩すがなんとか踏ん張り、振り返って暦に文句を言う。

「何するんだよ! 暦」

「俺からのバースデイプレゼントは……こいつだ!」

「はぁ?」

「今夜のSに限り、俺はランガと滑らない。今夜だけは我慢してやる。だから思う存分ふたりで滑ってこい!」

「ほう……僕たちの仲を引き裂こうとしてこないってことかな。殊勝な心がけだ」

「ああ今夜だけだからな」

「今夜だけというのは引っかかるが。まあよかろう」

 ランガの希望を訊くこともなく、暦と愛抱夢の間で話がまとまってしまった。

 まあいいか。ふたりが仲良くなってくれているようで、良かったと少し安心する。

「それではランガくん。バースデイビーフをはじめるとしよう」

「わかった」

 愛抱夢が軽く膝を折り、うやうやしく手を差し出してくる。そこにランガは自分の手を重ねた。そうすることがごく自然であるかのように。

 あんぐり口を開けた暦や呆れ顔の仲間たちのため息に気づくこともなく、ふたり仲良く手を繋いでスタート地点を目指し走っていった。