Rainy Day(吸血鬼シリーズ13)
羽田那覇最終便。飛行機の中で妙な夢を見た。
雨の降る夜〝あいつ〟と喧嘩している。ふたりともびしょ濡れになりながら俺は一方的に〝あいつ〟を責め酷い言葉をぶつけた。すごく後悔した——そんな後味の悪い夢。でも〝あいつ〟って誰のことなんだろう?
その夜は本当に久々のSだった。沖縄に帰省したときにしか参加できない。だから年に二回か三回参加するくらいになるのだろう。社会人になったのだから仕方ない。都会で社会人経験を積んだらいずれSのある沖縄に帰ろうと漠然と考えている。そのくらいの価値がSにはある。
真っ先に声をかけてきたのは、筋肉スケータージョーだった。
「よお! 暦じゃないか。久しぶりだな。ゴールデンウィークを利用して帰省か。元気にしていたか?」
「まあね。まだ有給取るなんてできないからな。——ジョーも元気そうだな」
暦に視線を向けチェリーが続いた。
「少しは学生気分抜けたか? 社会人は大変だろう」
「はぁーこんなに大変とは思わなかったよ」
「なーに、ため息ついているんだぁ?」
「シャドウは変わらないな。俺も沖縄で仕事探したい。でも沖縄じゃなかなか仕事見つからないし。親からは今の会社で最低三年は勤めろと言われているからな」
「大人って大変なんだね」と、アスリートらしくスポーツ飲料でアミノ酸か何かを補給していた実也がボトルから口を外した。
「実也は大学生プロスケーターか……」
「僕はまだ若いからね。大学生になったばかりだよ。それより暦はさぁ、普通に就職しちゃったけど、夢は諦めたの?」
「夢?」
「うん、言っていたじゃないか。自分の作った最高のボードで最高のスケートをするって」
「もちろん、諦めてなんていないさ。でも実家でもない限りボード作りなんてできないしな。部屋が狭くて……無理だ」
シャドウがニッと笑った。
「そういえばよ、昔すっげー変なボード作ったことあったよな」
「変なボードなんて作ってねーよ」
「ああ、あれか」とチェリーが腕を組み頷いた。
「ウィールがぐるんぐるん回転するやつだな」とジョーも思い出したらしい。
隣で実也がくくく……と肩を震わせた。
「あのトンデモボードね。しかもなんか変なマスコットキャラみたいなのが描かれていたし。あれ何?」
「イエティ」
「なんでイエティなんだよ!」
「なんとなくだ……」
「そもそも、この僕ですら乗りこなせなかったんだよ。もちろん他の誰も乗れなかっただろう。つくった暦だって滑り出してすぐにひっくり返ったじゃないか。何考えて作ったの?」
「何考えてって、華麗に乗りこなせるやつがいるんだよ!」
「どこにいるのさ」
「うっせーな。世界のどっかだよ」
「いないと思うけど……」
「そうだそうだ」と周りが実也に同調して囃し立て、ゲラゲラと容赦なく笑い出した。
四対一だ。もう何を言っても聞いてもらえないだろうし、からかわれるだけだと暦は諦め口をつぐんだ。
(笑いたければ笑え。世界中探せば絶対にいるんだ。あのボードを乗りこなせるやつが。誰がなんと言おうと俺は確信しているんだ……)
夕方、外出していたランガと愛之介がホテルに戻ってきたとき、フロントスタッフに声をかけられた。
「昨日、ランガ様が忘れられたということで届けものがありました。ちょうどお客様がホテルを出られてすぐくらいでしたでしょうか」
「俺、忘れものなんてしたかなぁ」
カウンターに置かれたものは丁寧に包まれた……板状のものだろうか。手に取ってみると……スケボーだとすぐにわかった。
まさか……
「もし違うようでしたら連絡して欲しいと、届けてくださったかたの連絡先もいただいておりますのでお預かりすることにしました」
「どんな人でしたか?」
「若い男性です。名刺と手紙を置いていきました」
——暦?
震える指で手紙を開いた。そこにはおそらく自動翻訳をかけただろう英語と日本語と二つ並べて書かれていた。LangaではなくRangaになっている。
〝Dear Ranga.
I would have given it to you in person, but I guess the timing wasn't right.
The package I left with you is a skateboard I built a long time ago. Ranga is probably the only one who can ride this skateboard. No one else has ever been able to ride it.
Take it if you don't mind. If you don't want it, just leave it with the hotel staff.
But I think this board suits your skating.
From Reki.
ランガへ
直接渡したかったけどタイミングが悪かったみたいだな
あずけた荷物は、オレが昔作ったスケボーだ。このスケボーを乗りこなせるのは、きっとランガだけだ
今まで誰もこのスケボーを乗りこなせなかったんだ
イヤでなければ受け取ってくれ
もしもいらないようだったらそのままホテルの人にそう言ってあずけてほしい
このボードはおまえの滑りに合っていると思うんだ
暦より〟
黙って後ろから見ていた愛之介が手紙を覗き込み声をかけてきた。
「ランガくん……これは?」
「話しただろう? 昨日一緒に滑った人だよ。スケボーを俺にくれるって……」
「ほう……手作りのスケートボードか」
「あの……どうしよう……」
「君が決めていいよ」
「うん……だったら俺、もらっておくよ。せっかくだし……他の誰も乗りこなせなかったスケボーって、ちょっと興味もある。名刺もらったからお礼のメッセージを送っておくよ」
「わかった。明日は出発だ。これから荷物を整理しようか」
ランガはそのスケボーをぎゅっと胸に抱きしめ「うん」と頷いた。
了