君の名前

 Sを創設し、無敗の帝王である愛抱夢。その愛抱夢がクレイジーロックに姿を見せなくなって久しい。もう随分と長いこと、興味を引かれる才能あるスケーターには出会えていない。それでも一縷の望みをかけ、S開催日には、リアルタイムで中継を確認するか、それが無理なら録画した動画をチェックする。

 失望することがほとんどだった。

 それでも信じて疑わなかった。いつか近い将来必ず会えると。僕だけのイヴに。

 そして運命のあの日、彼を見つけた。

 ゴール直前、高く飛んだエアの美しさに息を呑む。まさに芸術品だった。

 すぐに忠を呼び、少年の素性を調べさせた。

 少年の名は馳河ランガ。カナダで生まれ育ったという彼はスノーボーダーだと、見抜くことは簡単だった。

 あの夜、はじめてSに現れ、いきなり飛び入りでシャドウとビーフをして勝利。しかもスケートボードに乗るのもほぼ初めてだったという。

 初見のコースであれだけの滑りを見せた。荒削りだが的確なコース取り。さらにその怖いもの知らずの大胆さも攻撃的な滑りも、実に自分好みだと思った。

 彼ならば間違いなくたどり着くことができるだろう。虹色に輝く素晴らしいあの世界へ。そう愛抱夢は強く確信した。

 やがて彼にはS参加者の誰からともなくごく自然に〈スノー〉と呼ばれるようになり定着した。彼の二つ目の名前だ。

 スノー——雪か。

 冬になれば見渡す限り真っ白な雪原であることが当たり前の土地で育った人々にとっては、〈雪〉というものに対して特別な感慨は持てないかもしれない。だが日本で唯一積雪が観測されたことのない都道府県である沖縄の人々にとっての雪は、どこか神秘的で美しく儚げ、それでいてよくわからないがゆえ得体の知れない怪物のように恐ろしいものなのだ。

 そう、彼は誰もが畏怖するスケーターになる。

 そして三つ目の名前が与えられるだろう。その名で少年を呼ぶことが許されるのは愛抱夢ただひとり。

 イヴ——と呼んでいいのは。